2011年11月29日火曜日

実ボクショートショート(3)「大化け?」 by フリッカー

「ナーイス!」

ロビーで独り待っていると、
聞き慣れた掛け声と共に、スパ天に新たな入室者が現れた。
見慣れない名前、どうやら新人のようだ。

オールディー「こんにちは~」
擦り足番長「こんにちは、初めてですがお願いします。」
オールディー「お願いします、上に表示されたリングをクリックすればスパー開始です♪」
擦り足番長「はい」


スパーをいざ始めると、その新人は明らかに戦い慣れていた。
基本的な動きは既にできており、それは操作に慣れているだけじゃない、
ボクシング経験者の空気を醸し出している戦い方だ。

(やばい、カウンターでいきなり蓄積もらったよ…でも、ちょっと落ち着かないかな。)
ただ、やや勝負を急ぎすぎているのか、強打を自分から打ち過ぎているようだ。
3Rの終わり頃には、疲労が蓄積し、ストレートが鈍くなっていた。
(ここだ!)
ストレートをダッキングで避け様にアッパーを打ちこみ、そのスパーはストップした。


擦り足番長「どうもです。自分、どうですかね?」
オールディー「すごいですね、距離感抜群じゃないですか!」
擦り足番長「まぁ、実際にやってるので、多少は。」
オールディー「なるほど…距離調節は完璧ですから、あまり気負わずに最初から飛ばさないで、3Rぐらい様子を見てから相手の打ち終わりにストレートでKO狙ったら化けそうですよ」
擦り足番長「なるほど…どうもです。明日も頑張ります!」

軽い挨拶を終えると彼はそのまま退室した。

次の日、僕は熱を出し一日中寝込んでしまった。
パソコンはおろか、TVすら見る気力もない。
翌朝になって、ようやく熱が引いたのでポストから朝刊を取り出して読むと、
珍しくボクシングの記事が出ていた。

「そういえば昨日やってたっけ…あ、挑戦者勝ったんだ!」

新聞には、「北の番長、7RKO奪取!世界の番長に!!」の文字が躍っていた。
病気で見られなかったことを悔みながら記事を読んでいると王者のコメントが載っていた。

豊浦「相手はドンドン前へ出てくるタイプ。自分は距離調節が生命線だから3Rまで様子を見て、相手の打ち終わりをストレートでKOしようと思っていた、狙い通りになって満足の出来だった。初の世界戦で不安だったけど、昨日、友人から受けたアドバイスで吹っ切ることが出来た。」

「……もしかして?」

昨日のスパー記録を公式サイトで確認すると、彼のスパ天ネームは存在しなかった。

「……本当に化けちゃったなぁ。」

あれ以来、彼はスパ天へは来ていない。もしかしたら無関係の一見さんかもしれないけど、
王者になって忙しくなったから来る暇がないのだと、僕はそう願ってやまない。

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