家族全員が学力優秀の中で一人、
高校を中退してレールを外れていった下田。
宙ぶらりんの中、自分を変えたくて、
ボクシングをやってみようかな、と考えたのだが、
偶然入門したジムは名門中の名門、帝拳だった。
世界王者を目指す猛者が全国から集まる中、
埋もれてしまう練習生がほとんどだろう。
が、下田の動き、ボクシングセンスは出色だった。
たった二日でスパーを許可されるのは異例である。
が、センスのある男が陥りやすい落とし穴がある。
自分の居場所をやっと得た下田も例外ではなかった。
チャンスだけどここでもう一押ししたら疲れてしまう。
もうダウンは奪ってポイントは優位、無理をしない。
周りに評価され、勝ち続けていく中、
減っていくロードワークは時に省かれた。
負けはしないが、伸び悩みも感じられる日々。
必死さとかガムシャラな姿が薄くなっていく気配。
会長に飛躍すべく海外修行を、と提案されても、
自分は国内での練習で充分です、と断っていた。
日本チャンピオンとなり、家族や友人にも評価され、
一度は挫折した下田にどこか満足感が感じられた。
燃え上がるには、何が必要なのか…?
それは「危機感」だった。
世界戦を待ちながら続けていた国内王座の防衛、
格下と見られていた伏兵の三浦にまさかの敗戦。
立場を取り戻すべく組まれた世界ランカーとの再起戦、
ダウンを奪われて苦しい展開の末に負傷ドロー。
ビデオを見て「俺はこんなモノなのか…」と落胆。
引退の早い競技、頭によぎった文字があったかもしれない。
が、落ち込んだ末に下田が出した答えは、
一度は、いや何度も断ってきた海外修行だった。
嫌なことから逃げるんじゃない、
これからは嫌なことを全部やっていこう、と。
以降、下田は真剣にボクシングと向かい合った。
予定を超える海外修行、嫌いだったロードワークもこなし、
海外で突然打診された条件の悪い試合からも逃げなかった。
ここからの快進撃は見事だった。
そのファイトも観る者の心に響くようになった。
(素晴らしいボクサーだな、下田って…)
(こうゆう選手に世界を取ってもらいたいな…)
センスを感じさせる単発が目立っていた男が、
全身を使って相手に迫っていく、
いつ打ってくるか相手が怖がるファイターへと変貌した。
中盤から相手の力が落ちると流していた男が、
なにか追い求めるような目で前に出るようになった。
その末に昨日の栄冠があった。
素晴らしい世界王座の奪取でした!
2011年2月20日日曜日
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