2011年2月20日日曜日

下田昭文

家族全員が学力優秀の中で一人、
高校を中退してレールを外れていった下田。

宙ぶらりんの中、自分を変えたくて、
ボクシングをやってみようかな、と考えたのだが、
偶然入門したジムは名門中の名門、帝拳だった。

世界王者を目指す猛者が全国から集まる中、
埋もれてしまう練習生がほとんどだろう。

が、下田の動き、ボクシングセンスは出色だった。
たった二日でスパーを許可されるのは異例である。


が、センスのある男が陥りやすい落とし穴がある。
自分の居場所をやっと得た下田も例外ではなかった。

チャンスだけどここでもう一押ししたら疲れてしまう。
もうダウンは奪ってポイントは優位、無理をしない。

周りに評価され、勝ち続けていく中、
減っていくロードワークは時に省かれた。

負けはしないが、伸び悩みも感じられる日々。
必死さとかガムシャラな姿が薄くなっていく気配。

会長に飛躍すべく海外修行を、と提案されても、
自分は国内での練習で充分です、と断っていた。

日本チャンピオンとなり、家族や友人にも評価され、
一度は挫折した下田にどこか満足感が感じられた。


燃え上がるには、何が必要なのか…?
それは「危機感」だった。

世界戦を待ちながら続けていた国内王座の防衛、
格下と見られていた伏兵の三浦にまさかの敗戦。

立場を取り戻すべく組まれた世界ランカーとの再起戦、
ダウンを奪われて苦しい展開の末に負傷ドロー。

ビデオを見て「俺はこんなモノなのか…」と落胆。
引退の早い競技、頭によぎった文字があったかもしれない。

が、落ち込んだ末に下田が出した答えは、
一度は、いや何度も断ってきた海外修行だった。

嫌なことから逃げるんじゃない、
これからは嫌なことを全部やっていこう、と。


以降、下田は真剣にボクシングと向かい合った。

予定を超える海外修行、嫌いだったロードワークもこなし、
海外で突然打診された条件の悪い試合からも逃げなかった。


ここからの快進撃は見事だった。
そのファイトも観る者の心に響くようになった。

(素晴らしいボクサーだな、下田って…)
(こうゆう選手に世界を取ってもらいたいな…)

センスを感じさせる単発が目立っていた男が、
全身を使って相手に迫っていく、
いつ打ってくるか相手が怖がるファイターへと変貌した。

中盤から相手の力が落ちると流していた男が、
なにか追い求めるような目で前に出るようになった。

その末に昨日の栄冠があった。
素晴らしい世界王座の奪取でした!

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