2013年7月18日木曜日
実ボク寺(1)
2013段ある長い石の階段を黒いヘッドギアを被った若者が駆け上がっていく。夏の日差しが容赦なくヘッドギアを熱するが、若者の中身はそれ以上に熱い。
両手にはめた真っ赤なボクシンググラブが炎のように見える。いや、あの残像を見ろ! 本当に燃えているのかもしれない。なんという男だ!
(若者)住職っ、住職~っ!
(住職)なんじゃ、若者!
(若者)実写でボクシングのネット対戦で勝てません!
(住職)勝てるまでやれ!
(若者)何度やっても勝てないので来ました! 住職のお知恵をお貸しください!
(住職)ボクシング、だ。
(若者)は?
(住職)ボクシングなのだ!
(若者)はぁ
(住職)ボクシングなんだから、自分のパンチを当てる事で勝てるはずだ!
(若者)確かにそうですが…
(住職)これで解決かな?
(若者)いや! 私が当てるよりも、多く・強く、相手が当ててくるのです!
(住職)なんと! 若者よ、なぜ相手のパンチを避けないのだ!
(若者)できるだけガードをしているのですが…
(住職)ガードをしていない時は、どんな時だ!
(若者)私がガードをしていない時…。(はっ!)パンチを打っている時です!
(住職)ならばパンチを打つから打たれるのだ!
(若者)パンチを打つから打たれる!!!! パンチを打つからっ!!?
住職の一言で若者は電気に打たれたようなショックを受けてしまった。
勝つためにパンチを打ってきたはずなのに、パンチを打つから打たれていたなんて…!
(住職)またいつでも来なさい…。
打ちひしがれた若者は山門を出る際、ゆっくりと振り返り深々と一礼する。
セミの鳴き声の向こう側、全てを悟ったような住職が小さくうなづく(なにひとつ解決していないのに!)。
これまで相手に向かってパンチを打つのがボクシングだと思っていた。それが完全に否定されたショック。
涙なのか汗なのか、なにかを拭いながら階段をトボトボと降りていく若者。
1000段を過ぎたあたりで若者は立ち止まり、無限に込み上げてくる疑問を全力で空に向かって解き放つ。
「じゃーっ、俺はいつパンチを打てばいいんだぁーっ!」
返ってくるヤマビコが奇跡の発音。
「それは相手が強いパンチを打った時だぁ~、打った時だぁ~、…」
その奇跡をなんとも不思議に思わないほど混乱している若者が更に叫ぶ。
「もっと具体的に教えてくれーっ」
ヤマビコが再び奇跡の返事。
「相手のフックやアッパーの戻りモーションを狙え~、狙え~、…」
続け様、うっそうと杉が茂る右側からインテリっぽい声が聞こえてくる。
「相手が疲労していたら打ち返してこないんじゃないか?」
左側上空、崖の上から女の声!
「相手がダッキングしていたらアッパー打っていいわよ♪」
背後からロボットのような音声合成音が!
「ちなみに、相手強打は、フェイントで引き出せます。ピピピ。」
若者は10回転して声の主を探したが、人の気配はまったくない。どうやらヤマビコが奇跡的にアドバイスのように聞こえただけのようだ。
(自然のイタズラか…)
そう思った瞬間、激しい回転により平衡感覚を失ってしまった若者。残りの階段1000段を一気に転げ落ちていく。
(次のスパー、勝てるような気がする!)
ズコッ! バコッ! 全身の骨が折れていく中、若者は考えていた。
(折れるがいい! 指さえ動けば俺は戦える!)
もはや自分がなにを書きたいのかさっぱりわからなくなってしまいました。ごめんなさい。
気持ちとしては、せっかく実写でボクシングに挑戦してくれた新人さんがネット対戦で何戦戦っても勝てずに引退していく状態をどうにか手助けできないか…の一心だったのですが。
ここまで読んでいただいた方には気を取り直して「ビョークのスパ天講座」を読んでいただけると助かります。
勝つための方法が記してあり、読む前よりも必ず強くなることができます!
HSPプログラムコンテスト最優秀ゲーム賞、受賞作品!
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忘れてかけていた「勝利への憧れ」。
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