2011年10月26日水曜日

八重樫東

輝かしいアマチュア実績を引っさげデビュー、
当時からスピードに乗った動きで注目されていた。

5戦目で東洋タイトルを獲得、7戦目で世界挑戦。
これは当時の最短記録を狙った挑戦であった。

屈指のハンドスピード、多彩なコンビネーション。
やるんじゃないか?と予感させるチャレンジマッチ。

しかし、まだ運命の女神は彼に微笑まない。

王者イーグルの逞しいボクシングにテクニックで対抗するも、
序盤にバッティングでアゴを骨折するアクシデントに見舞われる。

最短記録を狙った試合は、痛々しい惨劇となってしまった…。
いつストップされても、いやストップすべきにも見えたフルラウンド。

長くボクシングを観てきたが、本当に悲惨なダメージだった。
期待された八重樫だったが、このまま引退してしまうのでは…とも思われた。

ほぼ一年のブランク、復帰戦を判定勝ちで飾るも
日本タイトル挑戦権獲得トーナメント準決勝で辻昌建に判定負け。
(後に別の試合で辻選手はリング過で亡くなりました。合掌…)

その後、勝ち続けるも、高速コンビネーションの合間に
勇気を持って差し込んでくる一撃をどうしても浴びてしまう。

鋭いステップワークもフルラウンドに渡って活用できない場面も目立ち、
ファイタータイプの金田に大差で勝ったが、中盤以降は打ち合っていた。

勝ってはいるけれど、スピードはあるけれど、
世界の壁に弾かれる典型パターンだな…。

そう思っていた。

タイのムエタイで大活躍した王者ポンサワンに挑戦が決定するも、
ターミネーターとあだ名される王者は相打ちとスタミナのボクサー。

序盤こそリードするが、確実に八重樫は中盤以降捕まる。
そして恐らく最終ラウンドまで辿り着けないだろう。

そう思っていた。


…今、そのタイトルマッチを見終わりました。

初回はポイント取ったが、2Rからポンサワンがボディを攻めてくる。
4Rまでリードしたが、徐々に八重樫の顔がダメージと疲労に曇る。

5、6Rは、ステップワークで捌こうにも疲労から思うように動けず、
上体を使ったディフェンスでどうにか凌いでいる状態だった。

こっからは単発ジャブでギリギリのポイントを拾い集め、
序盤のリードを守りきって幸運な判定を願うしかない…?

いや、下手したら万策尽きて倒されるんじゃないか…
と思って迎えた7R。

そんな悲観的な展望を考えていた私は、
自身の見通しの甘さを思い知らされる。

ここ数年は怪我の情報も風の噂に聞いていたし、
この夜に賭けてきた八重樫を本当に過小評価していた。

ガードを固めて足を止めた八重樫、
手打ちだったパンチに腰を入れた。

なぜ? 相手の土俵じゃないか、と思った。

しかし、ここから私はもう正座したまま動けなくなったのだ。

頭を振って延命するんじゃない、
足を使って延命するんじゃない、
覚悟を決めた男がそこにいた。

プロ中のプロ、打たれても打たれても打っていく。
少々の相打ちがあろうと休まないのは八重樫のほうだ。

もともと小さい目が更にショボショボになって、
ボロボロになっていき、イーグル戦の顔になっていく。

が、背中に盛り上がった筋肉はあの頃よりもずっと大きく、
ラウンドの合間に映される奥さんと子供達の瞳が彼を力を与えている。

互いに打てば当たる、ガチの打ち合いが続く。
王者がふらつく、挑戦者もふらつく、目が離せない展開。

八重樫、いけーっ!

続く8R、死力を尽くして追い込んでいったチャンス、
王者のカウンターが限界に近かった八重樫を腰砕けにする。

あーーーっ!
世界の壁とか勝利の女神とかここまでそっぽを向くのか…

人生を賭けた男がこんなに頑張っているのに!
妻が、娘が、息子が、ホール全員がこんなに祈っているのに!

10R、開始早々に八重樫の力強いジャブが王者の顔面を飛ばす。
王者の重心が後ろ足、棒立ちになるシーンが増えてきた。

スピードとテクニックでは上回ると言われていた八重樫が、
この終盤にきてスタミナでも精神力でも優位に立っている。

こんなに熱く戦う男だったっけ…
こんなに八重樫ってかっこよかったっけ…

ストップで勝利を告げられるとリングに転がる八重樫、
大橋会長が抱きつくはキスするは、もうやりたい放題♪
(見つめる松本コーチ含め、最高のジムだな♪)

最後は泣きながら心底爆笑させていただきました。
いや~、素晴らしい試合、感動をありがとう!

出身地である岩手からお父さん含む120名の大応援団。

アゴが砕けた挫折から這い上がって掴んだ彼の獲得劇は、
東日本大震災の復興に力を与えたんじゃないだろうか。

這い上がろう! 掴み取ろう! というパワーを!

0 件のコメント:

コメントを投稿