実写でボクシングのスパ天で会った際に快く転載許可を頂きました。
(ちなみに7戦2勝(2KO)5敗(2KO)でした)
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-
日本ボクシング界における歴史的一戦となったこの試合であったが、ざっと振り返ってみたい。
試合開始前の表情は非常に引き締まっていて、気負いは感じられないのが西岡。
ドネアはちょっと緊張気味に見える。
戦前の予想では、ドネアの小差~僅差判定勝ち。
最近不調で雑なボクシングになりつつあるドネアに対し、充実ぶりの著しい西岡。
しかしながらドネアのサウスポー殺しっぷりはおそらく健在であろう。
ドネアの左フックのプレッシャーから西岡が右のガードをなかなか外せない展開が予想される中、西岡は右のワンなしで左のツーを当てられるだろうか?
あるいはドネアの圧力をいなして右ジャブを機能させられるのか?ここが焦点となる。
おおまかにいって西岡もいい場面を作りつつも、ドネアの瞬間瞬間のクリーンヒットに印象を持ってかれて
小差の判定でドネアの勝利、となるのではないかと予想していた。
1R、ドネアはやや硬さが残るものの、非常に動きがクイックである。
ドネアのダイナミックなアタックに対し冷静にガードでパンチを受け止める西岡。
さしたる動きはなく1R終了、ドネア10-9。
ここで私は少々いやな感覚を覚えた。
様子見のRとなったことはある意味では戦前から決まっていた予定調和のようなものであったが、しかしドネアも様子見をしてくる可能性もあった(実際そうだった)第1R、なんとかしてポイントがほしかった。
こういうどうということはないRでのポイントを簡単に流出してしまうことが、このような強敵相手であれば、自分を一歩崖の淵に進ませることに往々にしてなるのである。
2R、ドネアのアタックがさらに強くなる。
ここ数戦のなかでドネアは間違いなくベストコンディション、打ち始めから打ち終わりまで非常にシャープで割り込むスキがなく、西岡は受けるしかない展開。
やはり西岡は右のガードを外せないので、右ジャブによる攻撃の着火もできない。
ダメージは負っていないものの終始相手を見てしまう西岡、スピード差は歴然。ドネア10-9。
このRで西岡の大敗を覚悟したボクシングファンは多かったのではないだろうか。
ドネアの打ち始めの左フックを警戒して右のガードを外せない、ドネアのコンビネーションが速くて強いので、打ち終わるまで割り込むスキがない、打ち終わりもすぐ体制が戻っていて打てない、そもそも打つパンチがない。
そして自分から先手を取ろうにも右ジャブは打ちづらく、左ストレートで踏み込むのはあまりにも怖い。
まだ西岡に目立ったダメージはないが、最大の問題点はズバリ西岡にとってのドネアに対するダメージソースが見当たらないことだ。
3R以降、案の定一方的にドネアが打ち込む展開に。
西岡も左を当てるために我慢してしのぎ、右ジャブを勇気をもって打っていったりと頑張ったのだが、あまりにもスピード差、アクション数の差がありすぎる。
また序盤のポイント優位もあってドネアにまったくストレスがない展開、ドネアはギャンブルを犯さない。
結果論にもなるが、やはり最初の2Rでもう少し勝負にいって勇気を持って自分からワンツーを打ち込む場面を作る、あるいは自分の顔面の位置を変えながら、ドネアのコンビネーションに割り込んで左ショートを打ち込む、などのトライが必要不可欠であった。なんなら足を踏んだっていい。
西岡は自身のこれまでの経験から、ドネアのアタックをまず見てガードしてやり過ごすことを選択した。
これは決して間違いではない。しかしそのプランではドネアの疲労より自身のダメージとポイント流出のほうが痛い、ということを正確に判断できなかった。
しかし無理もない。西岡はこれまで自分よりこれほど速い相手とやったことなどないのだから。
それでもなんとか決定的なダメージを追わず凌いでいた西岡。
そのまま後半戦を迎えられたらまだどこかで勝負にいけたかもしれなかったが、それだけに6Rに食った左アッパーでダウンを喫したのが痛かった。
ある意味では勇気を持って「耐えて凌ぐ」というプランを、ポイント流出も受け入れて選択した西岡がここで大きいダメージを負ってしまい、ポイントももう追いつかないレベルまで離されてしまった。
耐えるプランが自身になんのメリットももたらさなかったことになり、試合時間の半分が過ぎてしまったのだ。
西岡の集中力がここで切れてしまってもなんら不思議でもない場面であったが、よく持ち直した。
右ジャブも打っていき、相打ちタイミングでも左ストレートを打っていく決心をした6R終盤、西岡の勇気と決意を私はそこに強く感じた。
しかしここまでドネアにダメージ、ポイント、疲労どれを取ってもストレスを与えるものがなさすぎる。徐々に弱らされていく西岡。
そして運命の第9R、ドネアをロープ際に追い詰めて右を当てていき、左を打ち込むアングルができたその矢先に、ドネアの右ショートのカウンターが突き刺さった。西岡2度目のダウン。
ようやく左を打ち込める展開になり、この試合初めて訪れたチャンス、と思った矢先であった。
ダメージも疲労もたまっている上にポイントで圧倒的劣勢、打たなければいけない西岡に対し、余力が残っていたドネアにはあのパンチを打つだけの能力と余裕があったということだ。
なんとか立ち上がる西岡だったが、これはもうどうにもならないだろう。
私の、あるいは日本のボクシングファンのそんな心の声を代弁するかのように試合再開直後に田中トレーナーが割って入る。ドネアの9RTKO勝ちとなった。
敗因をズバリいうと、やはり両者のスピード、アクション数の差があまりにもありすぎた。
西岡が2つの行動をする間にドネアは5つの行動をしていた。
そこで西岡がドネアにダメージを与える、ひいては勝つためにはその5つの行動の間に割り込んで止める、あるいはドネアに5つ動かせないための行動が必要であった。
それがやはり自分からのアタックであり、ドネアのコンビネーションに対する割り込みであった。
これをドネアの左フックを食わないように毎R実行し、ポイントを取っていく。
そういった多様なストレス、ダメージを与えていきドネアが中盤以降ミスしたところにつけ込む。
こういったプランがやはり欲しかった。
非常に難易度の高いことであるが、勝つためにはそれだけのことが必要な相手なのだ。
また西岡はドネアの左フックをケアして右のガードを上げ、相手のアクションを見て対応することを自身のキャリアと戦前のプランから選択した。
これは西岡の今までの戦いの軌跡を見るに正解であり、そして目の前のドネアに対しては不正解であった。
見てから対応するにはドネアは速すぎ、見ていても食ってしまうほどドネアの攻撃力は圧倒的だった。
自分のターンがくる前にめっきり弱らされてしまうとはまったくの予想外であったことだろう。
両者ベストコンディションで上がった試合であったが、おそらく西岡にとっては当時のウィラポン以上に、何度やっても勝てない相手であろう。
全盛期の長谷川穂積なら私は、今日のドネアとも渡り合えていたとは思うが・・・。
ともあれこれが、残念ながら世界の壁というやつなのだろう。
しかしながら今日のドネアに勝てる人間はこの世におそらく存在しない(リゴンドーがどうかな?)。
西岡は自身のキャリアの集大成としてこの試合の準備をして、今日この試合に臨んだ。
自身がやるつもりだったとおりのプランを実行し、劣勢になってからは勇気を持って打ち込んだのだ。
全く恥じることではない。日本のボクシングファン全てが彼を賞賛していることだろう。
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 件のコメント:
コメントを投稿